241223
トンビを見ていた。 二羽が、金華山の空で、夕焼けのあいだに黒い影となって飛んでいた。 少しだけ雨が降っていたから、すっきりとはしない空であったが、それでも夕焼けに照らされて、良く見えていた。 ただ風に乗り、羽ばたかせることなく空にいるトンビだった。 真上にいたり、川の向こうまで飛んでいったりしながら、ゆるやかに流れるようにそこにいた。 何を目的に、何の方向に、なぜその羽ばたきで旋回するのか不思議だった。どう飛べばよいのか彼らは知っているのか。不思議だった。 二羽は、いつの間にか三羽になっていた。親子なのか、友達なのかわからないけれど。回転するように、風の流れを知っているようによく飛んでいた。 夕暮れと夜のあいだの空を、陽が出ていることを楽しむように飛んでいた。 街を見下ろせば、変わっていくものもあると思うだろうが、空だけを眺めておけばこれはきっと500年前から変わらないのだと思った。 彼は稲葉山が金華山に変わったこと、井口が岐阜へと変わっていったことを知っているのだろうか。むしろもっと前から名前が変わっていったことを知っているのだろうか。 トンビはその土地を知っているのだと思う。 どう羽を広げれば、よく飛べるのか、よく風に乗れるのか。 風の心地良さを知っているのだと思う。 きっと500年前も、彼らの先祖たちは同じ空を飛んでいたのだと思う。同じように。 眺めていたら30分ほど経っていた。さっきまでうるさくてしょうがなかった合宿で来ているだろう高校生たちの声も聞こえなくなっていた。高校生たちは合宿の対抗校の友達の話をしていた。せっかく温泉に来たのになという気持ちはもう無くなっていた。